シコウノイッタン

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【書評】『日本軍兵士ーアジア・太平洋戦争の現実』〜排除された現実〜

 

日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実 (中公新書)
 

 読みました。
良書だと思います。
私は、今、戦争体験者の記録映像を制作しているので、少しでも参考になればと購入したのですが、購入してよかったと思いました。

本書は「太平洋戦争」をテーマに、「最前線の兵士の死はどのようなものであったか?」という非常に重い論点を、膨大な資料とデータをもとに淡々と綴っていきます。

それらは、「零戦で死地に向かう」とか、「戦艦大和とともに沈む」とか、映画になるような物語性とはかけ離れた、ただただ陰惨な世界です。言い換えれば、歴史の表舞台から排除されてきた現実です。
戦記物はそこそこ読んでいるつもりですが、改めて知ったことを箇条書きします。

・戦死よりも病死が先行する前線→死因は操作される
自死率の高さ→これも操作される
・(精神)障害者まで兵士として徴兵する戦争末期→徴兵の基準をドンドンと下げていく窮乏国家
覚せい剤の蔓延する前線
・負傷兵を殺害する自国兵
・虫歯に苦しむ兵士
・兵士の体格劣化、若年化→軍服のサイズが小さく
心神耗弱が蔓延→発狂、戦争忌避
・休暇のない日本兵・公的休暇は存在するが使えなかった→欧米は、定期的に休暇を設定、本国へ帰ることもできた※この点、現代の日本企業と似てる

日本人は「日本軍」を、「特攻」、「勇猛果敢」、「玉砕」、「零戦」、「沖縄戦」など、独立したワードを無秩序に繋げて偶像的に認知している、と私は思っています。
ですが、上述した事項は、そうしたイメージとはかけ離れたものであり、これまでメディアの振るいのなかで多くが排除されてきた部分なのではないでしょうか。

この辺の懸念は作者も示されています。
終章では『近年の「礼賛」と実際の「死の現場」』と題打ち、凄惨な死の現場を捨象するかのような日本(軍)礼賛に対して警鐘を鳴らしています。
確かに、上記のワードも含め、日本軍が内包した各要素は、いわば「劇的」の繰り返しであり、裏返せば第三者的にはロマンを感じる部分なのかもしれません。ですが、それはともすれば、劇的ではなかった死者の軽視にもつながりかねません。

確かに、戦時の実相を体系的かつ正確に把握するのは膨大で大変です。
ですが、こうした本を通じて、正しい歴史認識を学び、それを後世に繋げていくのは、我々高世代の責務であると感じます。

私が話を聞いている方も90歳を超えています。
語りたがらない方も当然います。
生の声をアーカイブするには、兎に角時間との勝負です。


(国家としての先見性のなさにも紙幅が割かれていますが、その辺りは『失敗の本質』と併せて読むと理解がすすみます。)

【「失敗の本質」を読んで】組織は全然成長しないよ。インパール作戦だよ。 - シコウノイッタン